前十字靭帯が損傷すると、スポーツ時に支障をきたすことがあり、また、その後に半月板がきれたり、関節軟骨が傷んだりするので、年齢が若く、スポーツを日常的に行っている人は治療が必要になります。前十字靭帯は血行が乏しいので、一度損傷すると、ギブスによる外固定や、手術的に縫合術を施してもほとんど治癒しないと言われています。そのため、現在のところ治療として靱帯のかわりになるものを移植するしか方法がありません。
日本では主に骨付き膝蓋腱と膝屈筋腱のどちらかを移植の材料として用いることが多く、共に良好な成績が得られています。ただし、移植した腱がそのまま靭帯になるのではなく、一度壊死してその後細胞が浸潤してきて新しく靭帯に生まれかわるため、スポーツ復帰までに多く時間が必要になってきます。我々スポーツ整形外科医はこの時間を短縮するために多くの基礎研究を行っているところです。
当科は前十字靱帯をはじめ、膝の靱帯損傷の治療に関しては国際的にも有名な施設で、国内では指導的役割を果たしています。当科では膝屈筋腱と人工靭帯を組み合わせたハイブリッド型移植材料を独自に開発しました。これによってより高い力学的強度をもつ靱帯を作ることができるようになり、前十字靭帯や後十字靭帯の再建にも応用しています。 また、前十字靭帯は以前より、前内側線維束と後外側線維束の2つのバンドからなり、骨に付着する部分が太く、中央が細い構造をしていることが知られていました。しかし、技術的な問題で、太さが一定の移植材料を1本通すことしかできませんでした。最近の基礎研究によると、この2つのバンドは膝の角度によって相互に機能を分担していることがわかり、より生体に近い靱帯を復元することが望ましいという意見が唱えられるようになってきました。当科では前内側線維束と後外側線維束の2つのバンドを、2つのハイブリッド型移植材料でそれぞれ再建しています。現在、2つのバンドの長さ変化や張力変化の計測により、形状でも機能でもより正常に近い状態に再建することができることを確かめています。
損傷した前十字靭帯
再建直後
再建後1年
当科における膝屈筋腱を用いた再建術後には関節可動域制限の発生は極めて少なく、また過度に加速した後療法はむしろ有害であるため、術後早期においては比較的ゆっくりなリハビリテーションを行っています。それでも最終的ゴールであるスポーツ復帰には十分な筋力と対応能力がつくようなリハビリテーションメニューを組んでおります。
手術翌日~
膝装具固定・部分荷重許可・膝伸展訓練(30°~0°)・
下肢同時収縮訓練・下肢挙上訓練・股関節外転挙上訓練
1週目~
可動域訓練(0°~90°)・装具装着下全荷重歩行・静止スケーティング・レッグカール
2週目~
可動域訓練(0°~120°) ・ハーフスクワット(70°~90°)
4週目~
自転車・カーフレイズ・踏み台昇降
6週目~
可動域訓練(全可動域) ・階段昇降・速歩・全荷重歩行(装具なし)
12週目~
ハーフスクワット(30°~90°)・水泳(バタ足)
16週目~
ジョギング・スクワット(全可動域)
5ヶ月目~
ランニング・縄跳び・ジャンプ・敏捷性訓練・等速性収縮訓練
6-9ヶ月目~
スポーツ復帰